夏の夕方、鴨川の風景
丸太町橋で西から東に鴨川を渡る。
父のリハビリは足の関節を動かす練習と、平行棒のようなバーを持って立ち上がる訓練だった。リハビリを終えて病室に戻ると、継母が現れた。継母からこれまでの経過を聞く。リハビリに疲れたのか、父は横でウトウトしている。
五時半ごろに病院を出て、高校時代の友人で、現在は医院を開業するD君の住む岡崎まで自転車で往復する。時差ボケ対策のため、誘眠剤を処方してもらうためだ。この薬、松任谷由美も愛用しているとのこと。ユーミン。
鴨川の畔を自転車で走る。暖かい夏の夕刻の光景が目に入る。蚊柱が立っている。川に入り水と戯れる若者たちがいる。サキソフォーンの練習をしている人がいる。鴨川に来るたびに、京都に帰って来たという実感が湧く。
五十分で岡崎まで往復した。風があるので汗が出ない。しかし、生母に家に戻ると、顔が塩だらけなのに気付いた。結構汗をかいていたのだ。シャワーを浴び、生母の作ってくれた夕食を取る。
夕食後、従兄弟のFさん、友人のイズミ、そのお姉さんのサクラに電話をする。サクラには、ピアノの練習をさせてもらうように頼んでおく。彼女の声の弾んでいるのがうれしい。
翌朝、五時半に起きる。夜中の二時に目が覚めるが精神安定剤を飲んでまた眠る。初日にしては上出来の眠り。飛行機の中でも眠れたし。眠れている限り、元気で肯定的な気分になれる。鴨川まで散歩する。もう、ジョギングはできないので。旅行するといつも便秘になるのだが「定期便」もあり、まずは上々の滑り出しだ。
生母の作ってくれた豪華な朝食を食べる。母は「朝の連続テレビ小説」を見ている。飯を食いながら横目で見る。こんなものを見るのは一体何十年ぶりだろう。「テレビ小説」が、日本の女性の日常生活に深く根ざしているのはすごい。よく視聴率がどうのこうのと書かれているが、それが話題になるもの理解できる。
生母の妹、チズコ叔母に電話し、明日の午前中、ピアノを使わせてもらう約束をする。
九時前に生母の家を出て病院へ。その日は父のずっと横にいて、色々と話をする。
「俺の人生は八十歳でよかった、あとの十年は余分やった。」
と父は言う。また、父は時々僕に気を遣い、
「他に用事があったら行って来いよ。」
と言う。しかし、僕の「用事」はここに居ること、そのために帰ってきたんだから。
「医者は何時帰れると言ってる?」
と父は聞く。僕は出来るだけ正直に、昨日フジタ医師から聞いた説明を父に話す。
「一日が長い。天井を見ていると気が滅入ってくる。」
父が言った。父が眠っている間、本を読もうとするが読めない。時差ボケで、すぐ眠くなってしまうから。
鴨川の畔、ここへ来ると、いつもながらホッとする。