有難う!
蒸した魚と唐辛子のたっぷり入ったソース、これが四川料理の定番。魚の頬が一番美味いという中国人の意見には同意。
「結婚して、今の気分はどう?」
僕はワタルに聞いた。万里の長城と頤和園の観光を終えた息子と僕は、夕方、ホテルのサウナの中に並んで座っていた。
「『愛』だけではなく、『コミットメント』が必要だと思う。」
と息子は英語で言った。なるほど、分かるような気がする。「コミットメント」は色々な意味があるが、この場合「言質」とでも言うのだろうか。「言ったことを行動で示す」ということだと思う。「好き」、「大好き」、「愛している」という言葉はもちろん大切だが、それらの言葉には、行動による裏付け、つまり「コミットメント」が必要だということ。
「パパは結婚で必要なものは何だと思う?」
とワタルが聞いてくる。
「一に愛情、二に忍耐、三に寛容かな。」
その後、彼が最近シンガポールでどんな仕事をしているか、話を聞いた。
「ハンさんには本当に世話になったね。」
と僕が言う。ハンさんは、食事の後、
「今度は僕たちが払いますから。」
と言っても、頑として聞き入れなかった。
「中国人には『面子』が一番大切なの。ハンさんは、自分の『面子』を大切にしたかったんだと思う。」
とワタルは言う。六週間後に、日本で披露宴があり、次回は僕たちがホスト、ハンさん夫婦がゲストである、何だかプレッシャーがかかってきた。
翌日の火曜日、ワタルとゾーイは北京を発ってシンガポールに戻ることになっている。僕と妻、娘たちは、もう一日北京に留まり、水曜日のフライトで英国に戻ることになっていた。つまり、その日が、息子とゾーイと過ごす最後の夜だった。
風呂から上がって、八時ごろに六人で夕食に出る。ホテルと同じビルにある、中華料理である。
「本当に北京では何から何までお世話になって有難う。ゾーイのオーガナイズはパーフェクトだった。」
と息子と「義理の娘」に礼を言う。妻と娘たちも「有難う」と口をそろえる。
その夜食べた中で、一番美味しかったもの、おそらく、中国で食べた中で一番気に入ったのが「ロブスターのおじや」である。ロブスターのオレンジ色のスープの中に、食べる直前に炒った米を入れる。ロブスターの深い味わいのスープと、炒った米のカリカリした食感が、口の中で見事にマッチした。そう言えば、僕は、今回朝食で、いつも「お粥」を食べていた。自分でも、汁気のあるご飯が好きなのだと思う。
「おやじはおじやが好きなのだ!」
息子夫婦と最後の夜。ご馳走様!手前の土鍋に「ロブスターおじや」が入っていた。