ラスト・エンペラー
この建物「大和殿」、「ラスト・エンペラー」の中に写っていて、見覚えがある。
「ラスト・エンペラー」は僕のこれまで見た映画の中で、ベストテンに入ると思う。清の最後の皇帝であり、後で日本に利用されて、その傀儡(かいらい)として満州国の皇帝になった、愛新覚羅溥儀(あいしんかくら ふぎ/アイシンギョロ・プーイー)の生涯を描いた作品である。一九八七年の作品で、僕は当時住んでいた、ドイツのマーブルクで見た。皇帝として即位しながら、辛亥革命でその座を追われ、最後は普通の市民として生涯を終える。その映画のハイライトが、故宮で撮影された、溥儀の即位の場面である。スケールの大きさ、彩の美しさを今も忘れることができない。撮影のために、この有名な観光地が、数週間に渡って閉鎖されたという。
「僕は今その場所にいるんだ。」
そう思うと、とても感慨深い。故宮はかつての名前が「紫禁城」、英語では「フォービドン・シティー(禁断の街)」。十五世紀に明により王宮が建てられてから、明朝、清朝の歴代の皇帝がここに住んだ。
「えらい人出やねえ。」
と思わず愚痴が出る。雨にも関わらず、とにかく人、人、人。
「何時もこんな混んでるんですか?」
とガイドのシンさんに尋ねると、
「今は、観光シーズンですからね。」
とのこと。故宮は、一週間前くらいに、申し込まないと入れないと聞いた。つまり、入場制限が行われているのだ。
「でも、入場制限があるんでしょ?」
僕が更に聞くと、
「ええ、たった八万人しか、一日に入れないようにしているんです。」
とシンさん。八万人を「たった」と言い切ってしまうところに、中国のスケールの大きさを感じた。
とにかく広い。京都御所くらいかなと思っていたが、何のその。その四、五倍はある。北京の地図を見ると、小さな長方形だが、北京市自体が広いので、足で歩いてみると、想像していたよりはるかに大きなものだった。さすが「中国の皇帝」ともなると、やることなすこと、スケールが違う。ちなみに、この故宮だけではなく、北京市内の建物は、どれもやたらでかい。
「『大きいことは良いことだ』というのが中国人の価値観なの。」
とかつて北京に留学していた息子が言った。
故宮の観光は、南から北への一方通行になっている。北口から出て、人造の丘である景山公園に登ると、故宮が一望できる。改めてその大きさが分かる。
「パパ、大丈夫?」
と娘が聞く。正直、普段は田舎に住んでいる僕は、ちょっと人に酔っていた。
景山公園の高台から見下ろした故宮。改めて、その壮大さが分かる。人の多さも。