フランス人は本当に英語が嫌い?
ブルージュは川からも観光が出来る。
ブルージュの広場に面したカフェでビールを飲んでいると、隣の席ではやはり独りでビールを飲んでいる男性が話しかけてきた。
「どこから来られたのですか。」
少しフランス語訛りだが、聞き取りやすい英語である。
「日本からです。」
「実は、私の息子が昨日日本へ発ったのです。」
「ほうう、ビジネスですか。」
「息子は十八歳なのですが、ワーク・エクスベリエンス(職場体験)で一カ月東京にいる予定です。」
なるほど、息子さんが日本におられて、日本と関係ができたので、日本人らしい僕に話しかけてこられたわけである。
「日本は今、とてつもなく暑いですよ。それにメチャ湿気も多いし。」
僕はそのときちょうど考えていたことを口にした。
「そうなんですか。」
彼は驚いた様子。
「でも、十八歳なら大丈夫。どんな場所でも、どんな暑さでも生きていけますよ。」
そうなぐさめてあげる。このお父さん、ダンケルクの隣の都市、リールから来たとのことであった。
午後四時前にブルージュを出て、ダンケルクへ向かう。またまた「国境」を越え、四十五分くらいでホテルに着いた。ダンケルクも青空が広がる良い天気。ホテルの前の岸壁には、オランダからの結構大きい帆船が停泊している。帆船の上では、人々が酒を酌み交わし、ダンスをしていた。
良い天気に誘われた僕は、海岸のプロムナードまで歩く。「ヴァカンスの始まった週の天気の良い日曜日の午後」、海岸に人が集まる全ての条件がそろっている。海岸の真ん中には、仮設ステージが作られており、バンドが演奏している。数百人の人たちがステージの前に集まり、盛り上がっていた。音楽に合わせて、身体を動かしている。
「バンドが演奏する曲は何だろう?」
と良く聴くと、これがビートルズナンバー。例えば「ヘイ・ジュード」とか。もちろん英語。
「♪ラ〜ラ〜ラ、ラララ〜ラ、ラララ〜ラ、ヘイ・ジュード♪」
若い人はもちろん、中年の人々も手を挙げて、それを左右に揺り動かしながら、一緒に歌っている。
「あんたたち、英語が嫌いじゃなかったの?」
僕はその人たちにそうつぶやいた。
ホテルの前の岸壁にはオランダの旗を立てた帆船が接岸していた。
<了>