ボリス
歌劇場の向かいの南インドレストランで腹ごしらえ。
「『ボリス・ゴドゥノフ』?知らんなあ。」
僕は娘からのSMSを見てそう思った。彼女は、「父の日」のプレゼントに、僕を、ロンドン王立歌劇場で上演されるオペラに、招待してくれるという。そのオペラの名前が「ボリス・ゴドゥノフ」。僕はクラシック音楽のファンで、ラジオのクラシック専門局でかかる大抵の曲なら、三秒間聞いただけで、曲名を言い当てることができる(と思っている)。しかし、不勉強なことに「ボリス・ゴドゥノフ」というオペラはそれまで知らなかった。
「僕の知らない曲があったやなんて、ショック〜!」
ムソルグスキーの作品とのこと。ムソルグスキーはロシア五人組のひとりで、「禿山の一夜」、「展覧会の絵」で有名、それは知っていた。
「なるほど、ボリスさんは禿山さんのご兄弟なのね。」
ちなみに、「ロシア五人組」とは、モデスト・ムソルグスキーの他に、
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ミリイ・バラキレフ
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ツェーザリ・キュイ
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アレクサンドル・ボロディン
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ニコライ・リムスキー=コルサコフ
である。ウィキペディアによると「十九世紀後半のロシアで民族主義的な芸術音楽の創造を志向した作曲家集団」とのことである。
僕が「ボリス・ゴドゥノフ」のオペラを見に行く前週、英国の新聞の見出しには「ボリス」という名前が踊っていた。おりしも、「EU離脱問題」の挫折で、それまでの首相、テレーザ・メイが辞任を表明、次期保守党の党首、つまり次期首相を選ぶレースが行われていた。そのレースの本命が、ボリス・ジョンソン元外相だったからである。カリスマ性はあるが、色々公私に問題のある人物で、彼の記事が、新聞のトップに載ることが多かった。
インターネットで調べてみると、「ボリス・ゴドゥノフ」とは十六世紀末から十七世紀初頭にロシアを治めた「ツァーリ」(君主)であるという。ボリスというと、ロシアの前の大統領、ボリス・エリツィン、十八歳でウィンブルドンを勝った「火の玉サーブ」のドイツ人テニス選手、ボリス・ベッカー、そして、現在、英国の新聞紙上を騒がせている政治家、ボリス・ジョンソンを思い出す。調べてみると、「ボリス」というのは、ウクライナ、ブルガリア等、東ヨーロッパに起源を持つ名前だという。
僕は「ボリス・ゴドゥノフ」のリサーチを始めた。こういうことをやり始めると、僕は徹底的にやる人である。ウィキペディアの「ボリス・ゴドゥノフ、オペラ」という項目を始め、その他のインターネット上の情報を集め、僕なりに、「これを読めば一発で分かる」という資料を作った。入念なリサーチを行うのは、僕が凝り性である他に、もうひとつの理由があった。
「オペラは予備知識なしで見に行っても、訳が分からん。」
という過去の教訓。少なくとも、背景とストーリーを理解してから観ないと、楽しめないものなのだ。
今回、ボリス・ゴドゥノフを演じるブライン・ターフェル。