そして月曜日
列車の窓から見るマース川沿いの紅葉は見事だった。「紅葉」と言ってもこちらはオレンジ系。
マース川の岸の遊歩道になるベンチに座ってサンドイッチを食べていると、前を通り過ぎる人が、
「ボナペティ」(よろしゅうおあがり。)
と言ってくれる、
「メルシー」(おおきに。)
と答えて、またサンドイッチを食べた。
少し歩くと、マース川の洗い堰があった。川が水運に利用されているヨーロッパでは、堰の横には多くの場合、船を上下させるための「ロック」(閘門)がある。そこにもあったが、もう長い間使われていないように見えた。
十四時十分の電車で、再びナミュールに向かう。ナミュールの駅で、乗り継ぎのため四十分くらい待ち時間があった。駅前のカフェでビールを頼む。例によって、ベルギーらしい、甘みのある、アルコール度の高いビールであった。ナミュールからブリュッセルに戻るインターシティに乗るためにホームへ降りる。ボースカウト、ガールスカウトの子供たちがホームに大勢待っていた。果たして、彼らは僕と同じ列車に乗り、僕はブリュッセルに着くまでの一時間、子供たちの歓声に囲まれながら旅をしたのであった。
五時前にブリュッセル・ミディに戻った僕は、何時ものように、駅のスーパーでサラダとビールを買う。部屋で夕食。テレビをつけると、またまた「ストリクトリー・カム・ダンシング」をやっていた。昨日のダンスの後、視聴者の電話投票があったのだが、その結果の発表だった。単に結果を発表するだけ、一時間の番組。
「もっとあっさりやれよ。」
と文句を言いながら、今日もまた見てしまった。
日曜日は、娘たちが妻と僕のアパートに夕食に来る日だ。八時ごろに英国の家族に電話をすると、娘が出て、これからご飯を食べるところだと言った。明日の「朝イチ」から仕事である。滅多に訪れることのできない場所へ行けたので、有意義な週末だった。欲を言うと、妻でも娘でも、誰かと一緒に回れたら、もっと楽しかったのにと思う。もちろん一人旅も悪くはないけど。
その日も、九時半ごろに眠ってしまった。僕は昔働いていた、ドイツのマーブルクの工場で、また働き出す夢を見た。このパターンの夢を、今でも時々見る。もうマーブルクを出て、二十五年が経っているのに。「最初の職場」というのは、自分の心の中に、かなり強烈な印象として残っているのだとつくづく思う。
月曜日の朝、いつものように、朝食を取って、サンドイッチを作って、八時過ぎにアパルトマンを出た。ミディ駅から、空港行の列車に乗る。今週の仕事は、ブリュッセル空港の近くの顧客の訪問からだ。僕は顧客の前で話すことを予行演習しながら乗っていた。
ナミュール駅。ルクセンブルク発、ブリュッセル行の国際列車は何だかいかついマスク。
<了>