ベルギーの休日
カラフルな建物が水面に映って美しいゲントの街。
「今年になってここへ来るのは何回目だろう。」
ブリュッセル・ミディ駅でユーロスターを降りた僕は考えた。おそらく、十回?それとも、もっと?今年になって、ブリュッセルにある会社の契約が取れ、プロジェクトが始まった。そのプロジェクトマネージャーになった僕は、ブリュッセルへ来る機会が増えた。と言うか、最近はほぼ毎週ベルギーに「通勤」している。
ビジネス、つまり出張である場所を訪れると、仕事場、空港、ホテルの三箇所だけにいるというのが普通。その「魔の三角形」から抜け出せなくて、他に何も見ずに帰るというのが、いつものパターン。
「仕事は仕事、遊びじゃないもんね。」
「でも今回は違うんだ。」
金曜日の夜、ブリュッセルに着いた僕はそう呟いた。僕は、土曜日と日曜日、丸二日、ベルギーを観光することに決めていた。金曜日の夕方、フランスでの仕事が終わる。翌週の月曜日の朝からベルギーで次の仕事が入っている。金曜日の夜フランスから英国へ戻って、日曜日の夜英国からベルギーへ向かうという方法も考えられなくはない。でも、僕は今回、フランスからベルギーへ「横移動」することを選んだ。午後七時半、北フランスのリール駅でロンドンへ戻る同僚と別れた僕は、彼とは反対方向のユーロスターに乗った。そして、八時過ぎにブリュッセル・ミディ駅に着いたのだった。「ミディ」というのはフランス語で「南」という意味だ。
「週末、どこへ行こうかな。」
僕は列車の中で考えていた。ベルギーではブリュッセル市内と、「天井のない美術館」と呼ばれているブルージュを訪れたことがある。現在ブリュッセルのプロジェクトで一緒に仕事をしているAさんは、ゲントがお勧めだと言っていた。
「まずゲントかな。それからもう一日は、リエージュにしようか。」
僕の鞄の中には、少し前、ブリュッセルのホテルで貰った日本語の情報誌が入っている。そこで、リエージュが「素顔のヨーロッパと出会える町」と紹介されていた。「天井のない美術館」とか「素顔のヨーロッパと出会える町」とか、案内書というものは、なかなか魅力的なキャッチフレーズを考えるものである。
ミディ駅を出て、僕はその日予約していた、駅から歩いて一分のアパルトマン、「ミディ・レジデンス」に向かった。先ほども書いたように、ブリュッセルにはもう十回以上出張で来ている。最初はホテルに泊まっていたが、前回からホテルではなく「アパルトマン」(「アパートメント」をフランス語で発音したらこうなる)に泊ることにしていた。アパルトマンは台所が付いていて、炊事ができる宿泊施設。前回泊まったとき、そのアパルトマンが気に入っていたので、今回もそこに泊まることにして、金曜日から火曜日までの四泊予約を入れていた。
ヨーロッパの街は、トラム・路面電車がよく似合う。ゲント、市庁舎前で。