共通の言葉
ベルギーでのビールの種類の多さには、ただただ感心するのみです。
三時のブリュッセル発のユーロスターに間に合わせるために、アントワープを一時前に出発する列車に乗る予定でした。それまでまだ一時間ほどあるので、中央駅の裏の動物園へ行くつもりでした。しかし、切符売り場にも入り口にも長い列が出来ていたので、入るのは諦め、早めの列車に乗ることにして中央駅に入りました。何階層かに渡るエスカレーターを乗り継ぎ、最下層の、ブリュッセル方面のインターシティーの出るホームに行きました。結果的に早めに列車に乗ったことは正解でした。事故があったとのことで、列車は何回も停まり、結局三十分以上送れてブリュッセル・ミディ駅に着きました。ユーロスターの発車までにはまだ三十分以上時間があり楽勝だったのですが、もう一便遅い列車に乗っていたら間にあっていたかどうか、と考えてしまいます。。
ユーロスターで僕の乗ったビジネスクラスの車両は、ドイツ人に占領されていました。ちょうど、ドイツからの列車が着いて、乗り継ぎのお客さんが多かったみたいですね。そのドイツ人の集団の中に、ひとりのアジア系の中年男性が、五歳ぐらいの男の子を連れて乗っていました。荷物を棚に上げるのを手伝ってあげたとき、
「ベトナム人?」
とその男性が聞いてきます。
「ううん、日本人。」
と英語で言いましたが、英語は分からないようです。ドイツ語なら分かるということ。ところで、私はいつもネパール人に間違えられるのですが、ベトナム人に間違えられたのはそのとき初めてです。英国で、何度か「エホバの証人」の人に声をかけられたのですが、そのとき、
「これ読んでみてね。」
と渡されるのは何時もネパール語のパンフレットなのです。
「何でやねん。」
ともかく、その男の子を連れた男性はベトナム人であることが判明、通路を挟んで隣同士なので、ドイツ語で会話を始めたわけです。彼はドイツのザールブリュッケンに出稼ぎに来ているとのことでした。私たちがドイツ語で会話をしているのを見て、向かいのドイツ人が、
「どうしてきみたちはドイツ語で話をしているのだね。」
と聞いてきます。ドイツ人からしてみれば、よく似た顔をしたアジア人ふたりが、ドイツ語で話しているのは変な光景だったのでしょう。でも、それしか共通の言語がないのですもの、仕方がないですよね。間もなく食事が運ばれてきて、それを食べている息子さんに、
「シュメクツ?」(ドイツ語で「美味しい?」)
と尋ねましたが、通じない様子でした。身振り手振りで美味しいかと尋ねると、ニコッとしてうなずいてくれました。
<了>
これが、ベルギーのインターシティー(特急)列車。