東があれば西がある
五重塔、パゴダが美しい東寺。
久しぶり。元気だった。ずいぶん長い間、全然ランチタイムに現れないので、クビなったのかと思ったって。残念でした。言ってたじゃない。忘れてたの。ホリデーで二週間日本に行くって。昨日帰って来たの。日本では色々あって面白かった。
台風や洪水は大丈夫だったかって。今年は日本の水害の様子が、英国のテレビでも流れていたね。大丈夫だったよ。僕がいる間、ずっと良い天気だった。十月一日の朝にヒースロー空港を出発して、アムステルダム経由で大阪に飛んだの。前の日から日本の天気予報は、「爆弾低気圧」なるものの襲来を告げていて、僕の飛行機が大阪に着く二日の朝は、ちょうど雨風が強まるという予想。ちゃんと着くかちょっとヒヤヒヤしてた。でも、アムステルダムから乗った飛行機が大阪の関西空港に着陸したときは、雲は多かったけど太陽が出てた。天気予報が外れたんだね。滑走路の脇に大きな水溜りがあったんで、前の夜には強い雨が降ったのが分かったけど。関西空港からは、タクシーで母の住む京都へ向かったの。
で、着いてまず何をしたって。その日は買い物デー。ワイフに頼まれてた新しいラップトップを買って、最近よくテニスをするんで、その激しい動きで痛んできた靴の代わりに新しいスポーツシューズを買って。見たいと思っていた日本映画のDVDを何本か買って。コンピューターは日本で買った方が安いかって。比べたことはないけど、日本はまだ付加価値税、日本では消費税って言うんだけど、それが八パーセントなんだ。だから税率が二十パーセントの英国よりは理論的に安いと思うよ。
夕方は銭湯、パブリックバス。これが日本へ帰ったときの僕の一番の楽しみなんだよね。広いプールみたいな風呂に浸かるの。風呂から帰って、ビールを飲みながら、母の手料理を食べる。最高だね。正にゴールデンコース。八時半ごろには疲れて寝ちゃった。京都にいるときは、どこへでも自転車で行くんだけど、まだ結構暖かくて、自転車を漕いでいると汗が出る。何度くらいかって。そうね、昼間の気温は二十五度くらいかな。そう、日本はまだ英国の真夏の気候なの。それでも、ずいぶん涼しくなった方なんだって。八月は毎日三十五度以上あったらしいよ。きみの故郷のインドの方が日本より涼しいんじゃない。
京都に着いた翌日は、東寺っていう仏教のお寺へ言った。前の日、タクシーが南の方から京都に入るとき、この寺の横を通ったの。東寺は、鉄道の線路のすぐ脇にあるから、「東寺の塔」と僕たちが呼んでいる五重の塔、パゴダは、京都に入る旅行者が最初に目にする建物、つまり京都にシンボルなんだ。僕は、これまで百回以上横を通り過ぎながら、実は一度もその寺の中に入ったことがなかった。それで、東寺に行ってみることにしたんだ。地下鉄に乗って九条という駅で降りて、そこからバス停ふたつ分ほど歩くんだけど、高い五重塔のお陰で、絶対に方向を間違う心配はない。便利な場所だね。
東寺というのは「東の寺、イースト・テンプル」という意味なの。「イースト・テンプル」があれば、「ウェスト・テンプル」もあるのっかって。なかなか鋭い質問だね。昔はあった。京都が千二百年以上前、最初首都として作られたときは、中国の当時の首都シーアンを真似て、全てが左右対称に作られたの。だから、東と西に同じような寺があったらしい。でも、その後京都は東の方に発展して、西側の部分は殆どなくなっちゃったんだよね。で、今あるのは東の寺だけ。
ちょうど陶器市をやっていた。徳利、酒を温める器を買った。