エピローグ:ドクターX
米倉涼子さんの、この「おみ足」がいつもたまらない。
二〇二五年の元旦、母の作った雑煮を食べ、チズコ叔母の作ってくれたおせちをつまむ。
「今年も一年元気でいられるといいね。」
母に言う。母も九十三歳である。来年もこうして、一緒に新年を祝えるといいのだが。大丈夫、母は不死身だ。明日、二日、僕は日本を発つことになっている。
雑煮を食べた後、京都駅にある映画館に行った。「ドクターX、ファイナル」という映画を見るためである。「ドクターX」は米倉涼子さん主演の医療ドラマ。従妹のSちゃんの家で五年くらい前に見てから好きになり、新しいシリーズが放送されるたびに、YouTubeで見ていた。「群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、専門医のライセンスと叩き上げのスキルだけが彼女の武器」そんな女性外科医のストーリー。毎回ほぼ同じ展開なのだが、米倉涼子さん演じる大門未知子のかっこよさに魅せられて見てしまう。「私、失敗しないので」が彼女の口癖。今回日本滞在中も、夜のオンライン授業が終わった後、毎晩昔のシリーズを一エピソード見ていた。
しかし、十年間続いたこのシリーズも終わることになった。米倉さんの体調がイマイチだと言うし、準主役だった西田敏行さんも亡くなってしまった。そして、最後の完結編は、劇場映画として公開されることに。ファンの僕としては見逃すわけにはいかない。しかし、時間がないままに日本滞在最終日になってしまったのだ。
「なあるほど。」
二時間の映画を見終わって、外に出た僕はそうつぶやいた。「ファイナル」、「完結編」は、これまでの疑問が全て解き明かされるように作られていた。見終わった僕は、とてもすっきりした気分になった。お亡くなりなる直前の西田敏行さんも出演しておられた。色眼鏡で見るせいか、ずいぶん元気がないように思えた。
一月二日、僕は、チズコ叔母に京都駅まで送ってもらい、そこからリムジンバスで関空へ。午後六時の香港行のキャセイパシフィック航空機で日本を発った。香港でヒースロー行の飛行機に乗り換え、三日の朝、ロンドンに着く予定だ。母の家から英国の自宅まで、ドアツードアで二十七時間の旅。飛行機を待っている時間、飛行機の中、僕はずっと絵を描いていた。キャセイのCAさんって、結構お茶目。僕が絵を描いていると、横に立ち止まって見つめている。それも一人だけではなく、次々と。結局CAさん全員が見に来られたよう。皆さん同じ質問をしてくる。
「あんた、プロなの?」
「それ、どこで覚えたの?」
「絵、ほかにないの?」
ワインがなくなると、頼みもしないのに、すぐ「おかわり」を持ってきてくれる。CAさんたちにチヤホヤされ、楽しい旅になった。
飛行機の中で描いていた「駅」の絵。
<了>