慣れたものだよ右側通行
到着、まっすぐ進むと出口になる。ということで中は一方通行。
僕たちの降りたカレーは、非合法難民キャンプ「ジャングル」があったことで有名だ。そこから難民たちが、何とかして英国に渡ろうと、列車にしがみついたり、トラックに潜り込んだり、危ないことをした。そのキャンプも今は撤去されている。しかし、ユーロトンネルの周辺は、高い柵で囲まれている。
カレーからダンケルクに向かう道は殆どが高速道路で、カーナビには「所要予定時間三十九分」と出ている。客先での会議は十一時からであるので楽勝だ。
「右側運転、平気?」
とハンドルを握るMさんに尋ねると、力強い返事が来た。
「慣れてるから大丈夫。」
客先での会議を済ませたのは、午後五時二十分だった。帰りのカレー発の列車の時刻が六時五十分。一時間半あるが、何せ金曜日の夕方、道の混む時間である。
「あっ、危ない!」
Mさんの車は、顧客の門を出るところで、走ってきた車とぶつかりそうになった。
「そうや、ここは右側通行やった。」
とMさん。注意していても、自分に思い聞かせていても、慣れるまでには少し時間が必要なのだ。その後はすこぶる快調。四十分でカレーのターミナルに着く。チェックインで、予定列車より一本早い、六時二十分発の列車にまだ乗れることが分かった。もちろんそちらを選ぶ。六時十五分くらいに列車に乗ると直ぐに発車。例によって三十五分の所要時間の後、六時ちょうどにフォークストンのターミナルを出た。英国とフランスでは一時間の時差があるので、六時二十分に出発し、六時に到着するという「バック・ツー・ザ・フューチャー」的なことが起こりえるのである。
「今日は良い日やったね。渋滞にも出会わず、列車も定時運行、仕事は・・・まあまま上手く行ったし。」
Mさんはご機嫌である。朝の雨はすっかり上がって、太陽が輝き、気温は二十度近く、「心地の良い初夏の夕方」状態になっている。
「でも、ここからが分かりませんよ。『高速二十五線』は渋滞で有名やからね。おまけに今は『魔の金曜日の夕方』だし。」
僕が釘を刺しておく。しかし、実際、その後も奇跡的に道は空いていた。
「どないしたんでしょう、今日は。」
「天気が良いし暖かいから、皆早めに職場を出て家に帰ったのかな。皆今頃家のベランダでビールを飲んでるんやろね。」
Mさんがそう言った。Mさんが僕を朝拾ってくれたサービスエリアに着いたのが七時二十分だった。五時二十分にまだダンケルクにいたのに、七時二十分にはもう家の近くにいる。何だか信じられない。
フランス到着。標識がフランス語になり右側通行に変わる。