免税店のあるサービスエリア
簡単にして明瞭な標識。フランスはこちら。
テムズ川の河口部分では、ロンドンを一周する「高速二十五号線」の南行きが橋を渡り、北行きがトンネルを通っている。僕が英国に来たときは、トンネルしかなくて、ここは渋滞の名所だった。今朝は渋滞も無く、僕たちの車は快調に橋を渡る。橋げたの高さは六十五メートル。大きなクルーズ船、タンカー、軍艦なども楽々と橋を潜り抜けられる。ロンドンでは時々、とんでもない大きなクルーズ船が、タワーブリッジの辺りに停泊している。その船はこの橋の下を通って来るのだ。
テムズ河を渡ってすぐに、ドーバーやフォークストンに向かう「高速二十号線」に乗り換える。夏のバケーションシーズンには、大陸へ向かう車の長い列ができる道路だが、今日は快調に時速七十マイル(百十キロ)で走ることが出来る。Mさんのベンツは道路に張り付くように、静かに、着実に走っている。さすがに大陸へ向かうこの道はトラックが多く、左端の車線は、トラックが列を作って走っている。
七時半少し前、「チャネル・タネル」という標識が見えたので、高速道路を降りる。まず、トラックやバスなどの大型車両と、小型車両に道が分かれ、前に最初のチェックインゲートが見えた。左ハンドルの大陸の車と、右ハンドルの英国の車が両方通るので、係員のいるブースが、半分は右側に半分は左側にある。
「ありゃ、しっかり反対側に来てしもた。」
と思ったが、助手席に僕が座っているので、全く問題はない。ブースの係員にインターネットで予約した際のバウチャーとパスポートを見せると、封筒ほどの大きさのカードをくれた。片方に切れ目が入っており、その切れ目をルームミラーに掛けておくようにとのこと。外からこの車がこれからどの列車に乗るのかを、簡単に見分けられるためのようだ。
僕たちの列車は八時二十分発で搭乗開始時刻が七時五十分。まだ時間があったので、駐車場に車を停めて待合室でコーヒーを飲むことにする。スターバックスでMさんがコーヒーを奢ってくれる。この待合室、まあ、高速道路のサービスエリアと思ってもらってよい。カフェやレストラン、マクドナルド、ケンタッキー・フライドチキン、本や雑誌を売る店がある。普通のサービスエリアとの最大の違いは、空港で見るような「免税店」があること。チェックインを済ませたここはもう「英国の外」なのである。コーヒーを飲んで、トイレに行って、搭乗時刻になったので車に戻る。
「列車の中でおしっこがしたくなったらどうしよう。」
僕はまだそれを心配していた。
どちらの方向へ進んだらよいかは一目瞭然。「フランス」と書いた標識が出ている。「フランスへ行きたい方はこちら」、間違えようがない。表示に従って進むと、パスポート検査が二箇所あった。一箇所が英国出国、二箇所目がフランス入国である。ユーロスターもそうだが、海峡トンネルを通って対岸に渡る場合、対岸の入国審査も最初にやってしまう。着いたときは何も手続きがなくて、そのままスッと出て行ける。なかなか良いシステムである。
パスポート検査で旅行者を監視するカモメ。